認知症とゴミ屋敷には深い関係があり、認知症が発症することでゴミ屋敷に陥ってしまうケースは少なくありません。
実際、公益財団法人日本都市センターが全国814市区を対象に実施したアンケート調査によると、757のゴミ屋敷の事例のうち認知症が原因と考えられる事例は全体の約2割を占めています。
もしあなたのご両親やご親戚の家が急にゴミ屋敷化したのであれば、背景に認知症が潜んでいるかもしれません。
この記事では、認知症とゴミ屋敷の関係性に焦点を当てて、原因やリスク、対処法や防止策などについて解説していきます。
目次
認知症とは?

認知症とは、脳の病気や障害によって記憶力や判断力などが低下し、日常生活に支障をきたしている状態を指します。認知症は単なる物忘れとは異なり、体験の全て(夕飯を食べたこと自体)を忘れたり、本人に忘れたという自覚がなかったりする点が大きな特徴です。
認知症の症状は大きく、脳の機能障害が直接原因となる「中核症状」と、中核症状によって二次的に現れる「周辺症状(BPSD)」の2つに分けられます。
| 特徴 | 主な症状 | |
| 中核症状 | 認知症の人すべてに症状が現れる | ・記憶障害 ・見当識障害(時間や場所などがわからなくなる) ・実行機能障害(順序立てや効率的な行動が困難になる) ・理解力や判断力の低下 |
| 周辺症状 | 個人差が非常に大きく、症状が現れない人もいる | ・徘徊 ・暴言や暴力 ・妄想 ・抑うつ(気分が深く落ち込む、やる気が出ないなど) |
「認知症=高齢者がなるもの」と思われがちですが、若い人でも発症する可能性があり、65歳未満で発症する認知症については「若年性認知症」と呼ばれます。
認知症がゴミ屋敷化につながる主な原因

冒頭でもお伝えした通り、認知症の発症がゴミ屋敷化につながることは珍しくありませんが、それはなぜなのでしょうか。ゴミ屋敷の改善を図る上では、その原因を理解しておくことが重要です。
ここでは、認知症がゴミ屋敷化につながる主な原因について見ていきましょう。
①認知機能の低下
1つ目は、認知機能の低下です。
認知症になると記憶力や判断力などの認知機能が低下するため、ゴミ出しやものの管理が難しくなります。
【具体例】
- 曜日感覚が失われてゴミを出す日がわからなくなる
- 情報の処理が困難になってゴミの分別ルールが理解できなくなる
- 買った行為を忘れて同じものを何度も買ってしまう
その結果、次第に室内にゴミやものが蓄積していき、ゴミ屋敷化が進行していくのです。
また、人によっては分別や収集日を間違えることを恐れ、ゴミ出しを避けるようになることでゴミ屋敷に陥ってしまうケースもあります。
②身体機能の低下
2つ目は、身体機能の低下です。
認知症は脳の病気や障害によって、脳の神経細胞が壊れたり死滅したりすることで発症するため、人によっては、
- 手足のしびれや震え
- 身体のこわばり
- 歩行障害
などの症状が出ることもあります。
そのようなケースでは身体を動かすこと自体が負担になるため、ゴミ袋を指定のゴミ置き場まで運べなかったり、片付けや掃除を先延ばしにしたりすることが多くなり、その積み重ねでゴミ屋敷に陥ってしまうこともあるのです。
③気力の低下
3つ目は、気力の低下です。
認知症では「アパシー(無気力・無関心)」と呼ばれる状態がよく見られ、片付けやゴミ出しへの意欲が失われることでゴミ屋敷になることがあります。
さらにこの状態が続くと、セルフネグレクト(自己放任)に陥る可能性もあります。セルフネグレクトとは、自分自身の生活や健康への関心がなくなり、自己管理ができなくなる状態のことです。
セルフネグレクトに陥ると、食事や入浴といった基本的なことすらままならない状態に可能性もあり、そうなってしまうとゴミ屋敷の進行は一気に加速してしまいます。
④被害妄想
4つ目は、被害妄想です。
認知症の人の中には、「物を盗まれた」「誰かに狙われている」といった被害妄想が現れることがあります。
【具体例】
- ゴミを捨てると誰かに盗まれたと思い込む
- 誰かが自分のものを狙っていると思い込む
- 誰かに悪口を言われていると思い込む
こういった被害妄想があると、ものを捨てることや他人が室内に入ることに強い抵抗を示すようになってしまい、その結果としてものを過度にため込んだり、周囲の支援を拒否したりしてゴミ屋敷化が進行してしまうこともあるのです。
認知症が原因のゴミ屋敷を放置することの弊害

認知症が原因でゴミ屋敷化した状態を放置すると本人はもちろんのこと、周囲にもさまざまな悪影響を及ぼします。
ここからは、認知症が原因のゴミ屋敷を放置することの弊害について解説します。
①うつ病などの精神疾患を併発する
認知症が原因のゴミ屋敷を放置することの最大の弊害は、精神疾患を併発しやすくなることです。
認知症はうつ病や統合失調症などの精神疾患と合併する可能性がありますが、ゴミに囲まれた不衛生な環境は心理面に大きな負担を与えるため、通常に比べて精神疾患を併発する可能性も高くなります。
もし認知症と精神疾患が合併すれば、互いの症状を悪化させる大きな要因となる他、認知症と精神疾患は症状(意欲低下や妄想など)が似ているため、どちらが原因の症状なのかが見極めづらくなり、適切な治療を受けられなくなるリスクも高まります。
ゴミ屋敷と精神疾患の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
関連記事:ゴミ屋敷になりやすい人の5つの特徴|心理や精神疾患との関連も解説
②近隣とのトラブルに発展する
ゴミ屋敷の放置は周辺にも以下のような悪影響を及ぼすため、近隣住民から苦情が寄せられてトラブルに発展することもあります。
- ゴミによる異臭や悪臭が周辺に広がる
- ゴキブリやハエなどの害虫が大量発生して近隣の家にも侵入する
- 庭やベランダまで溢れ出たゴミが街の景観を損ねる
トラブルが続いて近隣との関係が悪化すれば社会的な孤立が深まるだけではなく、場合によっては管理会社や自治体を巻き込んだ問題にまで発展し、強制退去や行政代執行(ゴミ屋敷の所有者に代わって、自治体が強制的にゴミを撤去する制度)の対象になる可能性もあります。
③火災の発生リスクが高まる
火災の発生リスクが高まることも、認知症が原因のゴミ屋敷を放置することの弊害の1つです。
【ゴミ屋敷で火災の発生リスクが高まる主な要因】
- 室内に紙・布・プラスチックなどの可燃物が大量に蓄積している
- トラッキング現象(コンセント周辺にたまったホコリが湿気を吸い、微小な放電を繰り返すことで発熱・発火する現象)を引き起こす
- スマホやパソコンなどのリチウムイオン電池がゴミに圧迫されて発火・爆発する
特に認知症の人は記憶力や判断力の低下によって、ガスコンロや暖房器具の消し忘れなども多くなりやすいため、通常のゴミ屋敷よりも火災が発生しやすい状況と言えます。
さらに、ゴミ屋敷は大量のゴミによって避難経路が塞がれてしまうことも多いため、実際に火災が発生した際には逃げ遅れる危険性も高まります。
④孤独死のリスクが高まる
近年は高齢者の孤独死の増加が深刻な社会問題になっていますが、ゴミ屋敷に住む認知症の人は本人の拒絶や近隣とのトラブルによって特に社会的に孤立しやすいため、孤独死につながるリスクも高まります。
【ゴミ屋敷で孤独死のリスクが高まる主な要因】
- 緊急時(ゴミに埋もれて身動きが取れなくなったときや、急に体調が悪化したときなど)に助けを呼ぼうとしても、大量のゴミが音を吸収して室外に届かない
- ゴミ屋敷の不衛生な環境によって健康状態が悪化しても、周囲が察知しづらく症状が悪化しやすい
中でも単身世帯の場合は孤独死のリスクがさらに高まるため、特に注意が必要です。
認知症が原因でゴミ屋敷に陥ったときの対処法

では、実際に両親や親戚の家が認知症によってゴミ屋敷化したときは、どのように解決を図っていけばいいのでしょうか。
ここからは、認知症が原因でゴミ屋敷に陥ったときの対処法について解説します。
①医療機関を受診する
認知症が原因でゴミ屋敷に陥ったときにまず優先すべきなのは、認知症そのものへの対応です。
認知症は一般的に完治は難しいものの、進行を遅らせて症状を緩和させることは可能です。そのため、医療機関で適切な治療を受けることで、気力の低下や被害妄想などの症状が落ち着き、正常な生活環境を維持しやすくなります。
また、医師の関与があることで、親族も症状の進行に応じた接し方やトラブルへの対処法を学ぶことができ、不安の軽減にもつながるはずです。
②専門の相談窓口を活用する
認知症が原因でゴミ屋敷に陥ったときは、専門の相談窓口を活用することも検討してみましょう。
【主な相談窓口】
- 地域包括支援センター
- 自治体の福祉課
- 社会福祉協議会
これらの相談窓口に相談することで、「環境改善に向けた指導や助言」「本人との接し方に関する助言」「適切な制度・サービスの案内や調整」といった支援を受けられます。
ゴミ屋敷と認知症はどちらも簡単に解決できる問題ではないため、親族内だけで抱え込まず外部の支援を取り入れることも重要です。
なお、65歳未満で発症する若年性認知症については、全国各地に設置されている「若年性認知症に関する相談窓口」を活用してみましょう。
③本人と一緒に少しずつ片付ける
ゴミの量がそれほど多くないのであれば、本人と一緒に少しずつ片付けながら環境の改善を図るのも効果的です。
具体的には、
- 部分的に床が見えて足の踏み場がある
- ゴミの積み上がっている高さが膝下より低い
- 悪臭や害虫がまだ発生していない(もしくは目立たない)
といった状態であれば、本人をサポートしながら自力で片付けることも十分に可能となっています。
ただし、認知症の人は環境の変化に不安を感じやすく、一気に片付けようとするのはかえって逆効果になることが多いです。そのため、「今日は10分だけ」「今日は棚1段分」といったように、小さな範囲に絞って少しずつ片付けていくようにしましょう。
時間はかかりますが、小さな成功体験を積み上げていくことで本人も徐々に自信を取り戻し、認知症の進行を遅らせることにもつながります。
④専門の片付け業者に依頼する
ゴミの量が多く自力での解決が難しい場合には、専門の片付け業者の力を借りるのが現実的です。
片付け業者はその道のプロということもあり、大量のゴミも短時間で確実かつ安全に撤去してもらえます。そのぶん費用はかかりますが、自分たちでは手に負えないと感じた場合には、無理せずに業者に依頼することをおすすめします。
ただし、認知症のゴミ屋敷の場合には、「事前に要るものと要らないものを仕分けておく」「作業当日は本人と一緒に立ち会う」などの配慮が必要です。
ゴミ屋敷に陥っている認知症の人へのNG行為

認知症の人がゴミ屋敷に陥っている場合には、良かれと思って取った行動がかえって逆効果になることもあります。
ここからは、ゴミ屋敷に陥っている認知症の人へのNG行為について見ていきましょう。
①勝手に片付ける
本人の了承を得ずに勝手に片付ける行為は、最もトラブルになりやすい対応です。
たとえゴミにしか見えないようなものであっても、認知症の人にとっては大事なものであることは少なくありません。
そのため、本人のいないところで勝手に片付けてしまうと、「大事な物を奪われた」という感覚から周囲への不信感が高まり、その後の支援やサポートを拒否される可能性があります。場合によっては、「誰かに盗まれた」といった被害妄想を強めてしまうかもしれません。
時間や手間はかかりますが、認知症の人のものを片付ける際は理由や事情をしっかりと説明して、必ず本人の了承を得るようにしましょう。
②頭ごなしに否定する
認知症の人に対しては、頭ごなしに否定するのもNGです。
認知症の人は本人に自覚がないことも多いため、最初から一方的に否定すると自尊心を傷つけ、心を閉ざしてしまう大きな要因となります。また、「責められている」という感覚から防御的になり、かえってものへの執着が強くなる可能性もあります。
認知症の人に対しては否定ではなく、なるべく「一緒に考える」「気持ちに寄り添う」といった姿勢で接するようにしましょう。
- 「どうして片付けないの?」 → 「少し片付けたら過ごしやすくなるんじゃないの?」
- 「そんなものはゴミでしょ?」 → 「それは今も使っているの?」
- 「何で同じものをため込むの?」 → 「同じものがいくつもあるみたいだから、少し整理してみない?」
③行動を過度に制限する
たとえ安全面を考えてのことであっても、本人の行動を過度に制限するのは避けるべきです。
もちろん本人の安全を確保することは重要ですが、過度に行動を制限してしまうと本人の尊厳を傷つけたり生活の質(QOL)を損ねたりして、かえって認知症が悪化する可能性があります。さらには、本人の代わりに何でもしようとすると、サポートする側も疲弊してしまう可能性もあります。
認知症の人をサポートする際は、本人ができることにも目を向けることが重要です。役割を持ってもらうことで本人にも達成感が生まれ、気力や認知機能の維持にもつながります。
認知症によって再びゴミ屋敷化するのを防ぐ方法

認知症が原因のゴミ屋敷は一度きれいにしても元に戻る可能性が高く、再発防止には事前の対策が不可欠です。
ここからは、認知症によって再びゴミ屋敷化するのを防ぐ方法を3つ紹介するので、ぜひ積極的に取り入れてみてください。
①定期的に本人とコミュニケーションを取る
認知症によるゴミ屋敷化の再発を防ぐには、定期的に本人とコミュニケーションを取るようにしましょう。
一見地味ですが、定期的に本人とコミュニケーションを取ることで、
- 本人のちょっとした異変に気付きやすくなる
- 本人の孤立感が軽減される
- 現状を把握できてサポートする側も安心できる
といった効果に期待できます。
コミュニケーションの取り方としては面と向かって話すのがベストですが、電話やメールで連絡を取り合うだけでも十分に効果はあります。
コミュニケーションを取る際のコツは、監視ではなく見守りの姿勢で接することです。例えば、雑談の延長でさりげなく状況を把握するようにすれば、本人の警戒心を解きやすくなります。
②地域との交流を増やしてもらう
ゴミ屋敷の再発防止策としては、本人に地域との交流を増やして社会的孤立を防ぐのも効果的です。
実際、他者との会話やコミュニケーションは脳に良い刺激を与え、認知症の進行を遅らせる効果があるという研究結果も出ています。
【具体例】
- 地域のイベントやボランティア活動に参加してもらう
- 地域のサロンや交流カフェに定期的に顔を出してもらう
- 買い物する場所や散歩コースを固定して顔見知りを作ってもらう
ただし、いきなり新しい場に参加するのはハードルが高いことも多いため、最初は本人に同伴するなどの工夫もしてみましょう。また、地域以外にも学校や職場の同窓会に参加してもらうなど、既存の人間関係を活かすのも1つの手です。
③ゴミ出し支援制度を活用してもらう
ゴミ出し支援制度を活用してもらうのも、効果的なゴミ屋敷の再発防止策の1つです。
ゴミ出し支援制度とは、高齢者や障がい(認知症も含む)などの自力でのゴミ出しが困難な世帯を対象に、自宅前までゴミを収集に来てくれる制度のことです。
この制度を活用してもらうことで、ゴミの出し忘れや先延ばしを防げるようになります。また、多くの自治体では訪問時に声掛けによる安否確認もしてくれるため、定期的な見守りにもつながります。
ただし、自治体によって制度の対象条件やサービス内容は異なるため、事前に詳細を確認しておきましょう。
ゴミ屋敷と認知症に関するよくある質問

最後に参考として、ゴミ屋敷と認知症に関するよくある質問とその回答を紹介します。気になる質問があれば、ぜひチェックしてみてください。
Q1. 認知症の具体的な兆候は?
認知症の兆候はさまざまですが、ゴミ屋敷と関連性が高い兆候としては以下のものが挙げられます。
- 冷蔵庫の中で賞味期限が切れたものや、カビの生えた食材が放置されている
- 未開封の郵便物がチラシと入り混じって放置されている
- 同じ日用品が大量にストックしてある
- 明らかなゴミを「まだ使える」と言い張る
ただし、これらはあくまで兆候の1つにすぎないため、普段の言動なども見ながら総合的に判断するようにしましょう。
Q2. なぜ認知症の人は片付けようとすると怒る?
認知症の人が片付けようとすると怒る理由としては、主に以下の3つが挙げられます。
- ものが安心材料になっており、大事なものを奪われると思ってしまうから
- 被害妄想によって、誰かにものを盗まれたと思ってしまうから
- 環境の変化に対して、強いストレスを感じるから
このように、怒りの背景には不安や恐怖が潜んでいることが多いため、認知症の人の理解を得るためには、そういった不安や恐怖を払拭・軽減するような接し方を心掛けましょう。
Q3. 片付け業者に依頼するとどれくらいの費用がかかる?
業者に依頼した場合の費用はゴミの量によって変わってきますが、間取り別の費用目安は以下の通りです。
【間取り別の費用目安】
| 間取り | 費用目安 |
| 1R・1K | 50,000~300,000円 |
| 1DK・1LDK | 70,000~400,000円 |
| 2DK・2LDK | 100,000~600,000円 |
| 3LDK〜 | 250,000~800,000円 |
ただし、上記はあくまで目安です。実際は「建物の階数やエレベーターの有無」「駐車スペースの位置」「搬出経路の長さ」などによっても料金は変わってくるため、必ず事前に見積もりを依頼して、なるべく料金体系が明瞭な業者を選ぶようにしましょう。
片付け業者の費用相場については、以下の記事でより詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
関連記事:ゴミ屋敷の片付け費用相場とは?実際の片付け事例から目安を解説
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認知症は脳の変化によって発症するものであるため、本人の意思だけで改善を図るのは困難です。
もし身近に認知症が原因でゴミ屋敷に陥った人がいたときは、その点をしっかりと理解した上で、なるべく本人に寄り添う形でのサポートを心掛けましょう。
「本人と一緒にゴミ屋敷を片付けたいけど、どこから手を付けたらいいのかわからない」
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